オーストラリアをめぐり終えて


 海外に行くと日本の事が良く分かる。それは今回もそうだった。レンタカーを借りて走った総走行距離は1876kmにもなった。広い広いオーストラリア。その中で感じた事がいくつかある。

 僕は電力会社に勤める電力マンのため、必然的に海外に行っても電力設備にはつい目がいってしまう。オーストラリアの人から「全地中だから町が美しい」と聞いていたが、それはシドニーだけの事だった。ちょっと郊外に出るともう木柱で、絶縁のしていない裸の電線が街中を通っている。お世辞にもいい設備とは言えない。電柱の上は単純で、電線とスイッチと変圧器しか無い。実に分かりやすく、電線の高さ自体も日本よりも低い。
 家の密度が日本に比べはるかに低いため、当然、一本の電柱から電気を送る家もずっと少ない。ハンターバレーなどは何十本もの電柱で一軒のワイナリーに送電している。
 僕たちのような専門家で無いと分かりにくいかも知れないが、要するに日本に比べ、設備の使用効率が悪いのである。1本の電柱から送る家が多ければ一軒あたりの負担は軽くなる。僕の所属する関西電力でも都市圏での収入で田舎の赤字を埋めているのが現状だ。
 そういう意味で言えば、日本よりはるかに電気代が高くなっても不思議でないはずなのに、世界で一番電気代が高い国は日本である。
 これは想像だが、オーストラリアの人は停電しても苦情をいう事も無く、電力会社も「電気を消さない」といった投資の仕方をしないのだろうと思う。また、停電しても復旧までの時間をとやかく言わないのだろう。それよりも、そういった設備投資をする事による電気代の上昇が嫌なのだと思う。現実に最近の関西電力の配電部門の投資は停電を防ぐことはほとんど終わっており、停電があったときにいかに早く復旧をするかといった設備形成のために多大の費用をかけている。

 日本はある意味で狭い国土のおかげで高度成長を遂げることが出来たといえるのではないだろうか。電気もガスも水道も電話も、狭いおかげで効率のいい設備形成が出来たのだ。道路のインフラもそうだし、そのせいでの物流もそうだ。日本では翌日配達の宅急便が当たり前になっているが、オーストラリアで翌日配達を可能にしようと思えば、飛行機を使わなくては不可能だ。そういう意味では大きな国土を持つ国が日本と同じように経済成長をしようとすれば、はるかに大きな努力が必要だろうと思う。

 また、オーストラリアはある意味で「経済的に豊かにならない」事を選んだのかも知れない。ブリスベンからコアラに会いに行ったとき、案内標識があまり無い事は最初に書いた通りだが、ブルーマウンテンにしろ、どこのビーチにしろ、ゴールドコーストでさえも日本に比べれば「不便」である。
 ビーチには売店もトイレも一切無い。もちろん、ごみ箱も無い。ブルーマウンテンもお土産やさんといえばインフォメーションセンターの中だけである。
 日本だとちょっと人が集まりそうな所にはすぐに売店が出来、トイレが出来、所狭しと店が並ぶ。案内標識は何キロも前からよく分かるようにしつこいくらい出ている。動物園の中や横にはすぐに遊具が並び、遊園地があることすらある。天王寺動物園のように古いところでも中にゲームセンターがある。そして観光地にはごみの山が残るのである。
 ゴールドコーストで、朝、金属探知機を使用してビーチを掃除している人を見た。ほとんど何も落ちていないが、波打ち際を丁寧に探査している。日本のビーチでこれが出来るかどうか、考えてみればいかにオーストラリアのビーチがきれいかが分かる。
 自然の中でけがをしない程度に道が整備され、人々は散策を楽しむ。ブルーマウンテンの谷に下りればトイレなどどこにもない。トイレに行きたくなれば上まで戻らなくてはならない。そして自然以外のものはほとんど無い。唯一、レールウエイとスカイウエイという乗り物があったが、レールウエイは谷に行くためのもの、スカイウエイは滝を上から見ることが出来るものだ。それも自然の中にひっそりと隠れるようにして設置されている。

 日本よりはるかに広い国土を持つオーストラリア。しかし、その大地のほとんどは赤土の不毛の大地である。人々のほとんどは東海岸沿いに住み、西にはパースくらいで、北にも小さな町が一つあるくらいだ。その昔、流刑の地として使用され、現地のアボリジニーの土地を奪いながら町を作って来た国である。海岸線沿いだけとはいえ、日本よりはずっと広いエリアである。そこには日本の6分の1の人しか生活していない。

 今回の旅行で出会った、留学生の日本人女性から聞いた話だが、その人は留学を終え、今年の末、日本に帰るらしい。北海道だそうだ。本当はオーストラリアにいたいのだそうだが、仕事が無いとの事だった。日本に帰っても、ましてや北海道ではそう簡単に就職が出来るとも思えないが、オーストラリアよりはましなのだろう。

 日本が豊かさと引き換えにしたものを感じながら、それでもその気になれば他の国に旅行が出来るくらいの豊かさを手放せない自分。日本から行くから滞在費用は安く感じるが、オーストラリアに住む人にとってはけして安くないのだ。

 いろいろな事を感じた旅行であったが、親切なオーストラリアン達のおかげで、実に快適な旅が出来た。次の機会にはシドニーから南か、ブリスベンから北の地域を走ってみたいな〜と思う。


旅行中で困った事No1


 普通のコーヒーを飲むことが出来なかった。何も考えずに頼むとカプチーノ。ショートブラックとかロングとかモカとか、いろいろ試したがありつけなかった。一度はメニューの中に「レギュラー」と書いてあるのを見つけ、それを指差して頼んだのだが、出てきたコーヒーはお酒入り。よく見ると「リキュール」だった。やっと普通のコーヒーを飲んだのは帰りの飛行機を待つシドニー空港の中にあるイタリアンカフェであった。でも、インスタントだった・・・。



トップへ